この記事で分かること
- 申請書類の作成に関わった代理人も、不正受給の当事者とみなされる規定があること
- 計画の事前提出がないと受給できない制度と、通年受付でも予算枠があること
- 顧問先が「補助金」を求めてきたときに、どこへつなげばよいか
代理人も不正受給の対象とみなされる
助成金の話を始める前に、押さえておきたい規定があります。厚生労働省のキャリアアップ助成金のページには、不正受給についてこう書かれています。
事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、従業員、代理人その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成に関わった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなします。
処分の内容も明記されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 返還 | 不正に受給した助成金は全額返還。加えて不正受給日の翌日からの延滞金、不正受給した額の2割に相当する額も納付 |
| 受給停止 | 不正受給決定日から5年間、雇用関係助成金(不正受給を行った以外の助成金を含む)は受給できない。全額返納されていない場合、この期間は延長 |
| 公表 | 公表基準に該当する場合、「事業主名及び代表者名」などが公表される |
顧問先の書類を預かる立場では、賃金台帳や出勤簿の記載と実態がずれていないかを確認する必要があります。厚労省は「助成金に関する勧誘にご注意ください」として、委託事業者を名乗る勧誘についての注意喚起も出しています。
出典:厚生労働省 キャリアアップ助成金/事業主の方のための雇用関係助成金
動いた後では間に合わない制度がある
顧問先から「先月、パートを正社員にしました」と聞いた時点で選択肢が消えることがあります。制度ごとに、事前に済ませておくべき手続きが決まっているためです。
| 制度 | 事前に必要なこと |
|---|---|
| キャリアアップ助成金(正社員化コース) | 正規雇用労働者に転換する前日までに「キャリアアップ計画」を作成・提出していること。あわせて転換制度を就業規則などに規定していること |
| 業務改善助成金 | 事業場内最低賃金の引上げ計画と設備投資等の計画を立てて交付申請し、交付決定後に計画どおり実施する。「交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は、助成の対象となりません」 |
| 人材開発支援助成金 | 訓練の実施前に計画届を提出する |
正社員化コースはこのほかに、転換後6か月間の賃金を転換前6か月間の賃金より3%以上増額させることが受給条件に含まれます。支給申請の期限も「取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内」と定められています。
月次の面談で「近く正社員に登用する予定はありますか」「時給の見直しを考えていますか」と一言確認できるかどうかが、そのまま結果を分けます。
出典:キャリアアップ助成金(正社員化コース)リーフレット・令和8年4月8日版(PDF)/厚生労働省 業務改善助成金
通年受付でも予算枠がある
雇用関係助成金は公募回という形をとらないものが多く、その分「いつでも申請できる」と受け取られがちです。ただし予算の制約は存在します。
業務改善助成金の令和8年度リーフレットには、次の記載があります。
- 「予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合があります」
- 「同一事業所の申請は年度内1回までです」
また、この制度は年度ごとに受付開始日が決まっています。令和8年度の交付申請受付開始は2026年9月1日、申請期限は申請事業所に適用される地域別最低賃金の発効日の前日、事業完了期限は交付決定の属する年度の1月31日です。
「通年受付だから急がなくてよい」ではなく、年度のどこにいるかで残り時間が変わる制度がある、という理解が実務上は安全です。
労務相談からつながる場面
新しく話題を作らなくても、顧問先から出てくる相談の中に接点があります。
| 顧問先の相談 | 見に行く制度 |
|---|---|
| パートを正社員にしたい | キャリアアップ助成金(正社員化コース)。中小企業・有期雇用から正社員化で1人あたり40万〜80万円、事業所単位の加算あり |
| 時給を上げたいが原資が不安 | 業務改善助成金。最大600万円、助成率3/4または4/5。ただし生産性向上に資する設備投資等とセットが条件 |
| 社員に研修を受けさせたい | 人材開発支援助成金。訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成 |
厚生労働省には「雇用関係助成金検索ツール」があり、取組内容(雇用維持、在籍型出向、再就職支援、中途採用、雇入れ、雇用環境の整備、両立支援、職業能力向上)と対象者(障害者、高年齢者、母子家庭、有期雇用労働者など)から絞り込めます。相談内容から逆に引ける構造になっているので、面談中でも確認しやすい作りです。
顧問先が「補助金」を求めてきたら
労務の話をしていると、「うちも補助金をもらえないか」と聞かれることがあります。ここで言われている「補助金」は、多くの場合、厚生労働省の助成金とは別の枠組みです。
| 雇用関係助成金 | 補助金 | |
|---|---|---|
| 所管 | 厚生労働省 | 経済産業省・中小企業庁、自治体 |
| 窓口 | 都道府県労働局・ハローワーク(業務改善助成金は労働局雇用環境・均等部室) | 商工会・商工会議所、中小機構など制度ごとの事務局 |
| 財源 | 雇用保険二事業の保険料。令和8年度の一般の事業で3.5/1,000、事業主のみが負担 | 国や自治体の予算 |
| 選ばれ方 | 定められた支給要件を満たすかで判断 | 公募期間内に申請し、審査で採択・不採択が決まる |
補助金側の性格を示す記述として、小規模事業者持続化補助金の公募要領は冒頭で「本補助金は、審査があり、不採択になる場合があります」と明言しています。要件を満たしても通らないことがある点が、助成金との大きな違いです。両者の構造的な差は補助金と助成金の違いで整理しています。
出典:厚生労働省 令和8年度 雇用保険料率のご案内(PDF)/小規模事業者持続化補助金 第20回公募要領 第8版(PDF)
情報の探し先が変わる
補助金は情報源が国・都道府県・市区町村に分かれており、厚労省のサイトを見ても出てきません。
- 国の制度:中小企業庁「補助金公募情報」
- 国・都道府県:J-Net21 支援情報ヘッドライン(中小機構。47都道府県で絞り込み可、RSS配信とメールマガジンあり)
- 市区町村:各自治体のサイト
公募の出方や年間サイクルは補助金の公募はいつ?年間サイクルと最新日程にまとめています。
つなぐ先
自分の事務所で扱わない場合でも、顧問先に行き先を示せると相談は前に進みます。地域の商工会・商工会議所、よろず支援拠点、認定経営革新等支援機関などが窓口になります。小規模事業者持続化補助金のように、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書がないと申請できない制度もあるため、結局は地域の窓口を経由することになります。
なお補助金は後払いで、事業費を一度全額立て替える必要があります。入金までの時間感覚は補助金はいつもらえる?入金までの期間を実例で解説で確認できます。顧問先に伝える際、この点だけ添えておくと期待値のずれを防げます。
どこまで関与するかは事務所ごと
顧問先の労務の動きを最も早く知る立場にいる、という事実は変わりません。正社員化や賃上げの相談を受けた段階で「その前に確認しておく制度がある」と一言添えるだけでも、顧問先が取れる選択肢は変わります。
雇用関係助成金の窓口は都道府県労働局・ハローワークで、労働社会保険に関する手続の延長線上にあります。一方、経済産業省・中小企業庁系の補助金はまったく別の枠組みです。どこまで自分で扱い、どこから外部につなぐかの線引きについては、業務範囲に関わる判断も含め、所属の社会保険労務士会や専門家にご確認ください。各制度の要件については、支給要領や公募要領をご確認のうえご検討ください。
この記事は2026年8月23日時点の情報です。最新の公募状況は公式サイトでご確認ください。